第1回ヨーロッパ女子情報オリンピック
(EGOI 2021)
スイス大会 参加報告

日本選手団 団長 北村祐稀


1. 概要

第1回ヨーロッパ女子情報オリンピック (EGOI 2021) は2021年6月14日から6月19日まで,スイス連邦を主催国としてオンラインで開催された.

日本選手団は東京都府中市のホテルコンチネンタル府中に集合し,プラクティスや競技を行った.開会式と閉会式は YouTube にて配信され,視聴することで参加した.

EGOI 2021には43ヶ国・地域から157名の選手が参加した.競技は6月16日と6月18日の2日間にかけて行われた.各競技日の競技時間は5時間であり,出題された課題数はそれぞれ4題 (2日間で合計8題) であった.競技結果に基づき上位者には金・銀・銅のメダルが授与された.全参加者の約半数にメダルが授与され,金・銀・銅の割合はおよそ1:2:3と定められている.今年は金メダルが14名 (全参加者の約9%) に,銀メダルが26名 (全参加者の約17%) に,銅メダルが39名 (全参加者の約25%) に与えられた.

EGOI 2021における日本代表選手の成績は,銀メダル2個であった.


EGOI 2021 日本選手団
 日本代表選手
  銀メダル  藤居星 札幌市立あいの里東中学校3年
  銀メダル  町野有夏   Millfield School 3年
小田華子 桜蔭高等学校1年
  南平真希 Nagoya International School 1年
 日本選手団役員
  団長 北村祐稀   大阪大学2年
  副団長 戸髙空 京都大学2年 (IOI 2019選手)
  随行員 山口利恵 東京大学 特任准教授

EGOIは個人戦であり公式データとしての国別順位は存在しない.公表された成績に基づいて算出したところ,メダル獲得数による日本の国別順位は 12 位であり,総得点による日本の国別順位は 16 位であった.

2. 競技について

EGOI は数あるプログラミングコンテストのうちの1つであるが,同時に数ある科学オリンピックの1つでもあり,女子中高生を対象としていること,必要な知識を最小限にとどめ柔軟な思考力を問うこと,代表選手が世界各国から参加するという特徴がある.競技では,与えられた開発環境を用いてプログラム (C++,Java,Python のいずれか) を作成してソースファイルを競技サーバへ提出する.提出したプログラムは競技サーバ上でコンパイル・実行され,その実行結果に基づき得点が与えられる.実行時の時間・メモリに制限があるため,効率の良いアルゴリズムを設計することが重要となる.早く提出することによるメリットや,誤った解答を提出した場合のペナルティは無い.選手には,高度な課題に対して,5時間の競技中にじっくりと取り組むことが要求される.

競技時間内であれば解答の再提出も可能である (提出回数の制限は課題ごとに50回であるが,通常この制限を超えて解答を提出することはあり得ず,実質的に提出回数は無制限と言える).

EGOI 2021で出題された課題は以下の8題である.

EGOI 2021 競技課題
 競技 1 日目    ランタン (Lanterns)
  Luna は恋が好き (Luna Likes Love)
  双子のクッキー (Twin Cookies)
  ゼロ (Zeros)
 競技 2 日目 怒った牛 (Angry Cows)
  二重の宣言 (Double Move)
  鉄道 (Railway)
  買い物天国 (Shopping Fever)

いずれも数理的思考力が問われる良問である.各課題はいくつかの小課題に分割されている.小課題の中には,単純な実装で得点が得られるものから,高度なアルゴリズムを実装しないと得点が得られないものまで含まれている.従って1つの課題を丸ごと落として0点になってしまう可能性は少ないが,満点を取るのは難しい.

また,すべての問題の満点の配点は同じため,比較的簡単な問題では満点を取りたいところであるが,他のプログラミングコンテストと違い,選手はコンテスト中に順位表を見ることはできない.このため,選手は問題の出題順 (運営の考える難易度順) も参考にしながら難易度を一人で判断し,コンテスト中の時間配分を考えなくてはいけない.

EGOIはプログラムの作成技術を競う大会ではない.技術力があるに越したことはないが,それよりもEGOIで重視されるのは数理的な思考力・洞察力である.競技では課題の本質を見抜く力が問われ,(気づけばそこまで難しくはないものの) 一見して何をしたらいいか分かりづらいような問題も出題された.

  1. 競技実施方式 : 本年はオンラインでの開催ということで,選手は各国内から競技に参加した.各国で準備したPC上で配布された仮想マシンを動作させるという方式で行われたため,ハードウェアの性能は国によって異なったかもしれないが,ソフトウェアの環境はすべての選手で統一された.
    すべての国で同時に競技が実施され,2日とも日本時間では17時 - 22時の5時間であった.
    当初公開が予定されていたリアルタイムのスコアボードは,今年は不正行為防止を主目的として,各日競技終了まで公開されなかった.

  2. 競技規則 : IOIとほぼ同一の競技規則が適用された.

  3. 問題形式 : EGOI 2021で出題された課題の形式はIOIとは異なり,標準入出力を用いてデータの読み書きを行い,与えられたデータを処理するプログラムを実装した完全なソースファイルを提出する方式であった.出力ファイルのみを提出する形式の問題は出題されなかった.
    提出されたソースファイルは競技システム上ですぐにコンパイル・実行・評価される.競技参加者にフィードバックが返され,自分の得点を知ることができる (現在の競技規則では,すべての提出に対して完全なフィードバックがあることが明記されている).満点でなかった場合は,どの小課題で失点したかを知ることができる.

  4. 競技システム : 競技時間中,選手には競技用PCが1人1台与えられた.選手のPCには開発環境と,競技システムにアクセスするためのウェブブラウザがインストールされていた.また常時コンテストのネットワークに接続されており,主催者側からPCの状態を監視・制御することができるようになっていた.技術委員の努力に深く感謝したい.
    競技システムは,当初例年のIOIと同様にCMSが用いられる予定だったが,プラクティスの直前にCodeforcesへ変更となった.

  5. 翻訳 : 競技日当日の午前中から昼間に,日本選手団役員と応援スタッフにより問題文の翻訳が行われた.
    今年の翻訳システムは近年のIOIと同じもので,Markdown形式を用いすべての編集がサーバ上に保存されるものであった.ただし,日本では時差と日本語フォント特有の問題から,このシステムは使用せず独自のものを使用した.

3. その他・感想など

今年EGOIは初開催ながらオンラインとなったが,大きなトラブルが発生することなく,大成功に終わったと思う.各国の競技環境の準備にあたった各国スタッフや,オンライン競技システムの作成と運用を担った技術委員をはじめとしたすべての関係者に,深く感謝したい.

また,交流面でも比較的充実しており,常時アクティビティ (ボイスチャットやビデオゲーム,映画鑑賞など) に誘う声が飛び交っていた.オンラインでこれほどのイベントを実施できたのは,運営側の努力の大きさゆえだろう.数十名のボランティアのガイドの皆さんにも感謝したい.


4. おわりに

今年は初開催,初参加ながら,銀メダル2個というすばらしい成績をおさめることができました.今回,EGOI 2021への選手団派遣を無事に終えることができましたのは,日頃より情報オリンピックの活動にご支援をいただいている皆様のお陰です.この場を借りてお礼を申し上げます.どうもありがとうございました.今後ともよろしくお願いします.