髙谷くん,金メダルおめでとう.伊佐くん,小倉くん,銀メダルおめでとう.佐藤くん,銅メダルおめでとう.
4 人の選手全員が IOI 初参加であり,最初は緊張した雰囲気もありましたが,いざ競技が始まると実力を存分に発揮して,全員がメダル獲得という好成績をおさめることができました.選手の皆さんの健闘を讃えたいと思います.
台湾には世界屈指の IT 企業が集まっています.情報科学教育にも力を入れているようで,台湾選手は IOI で毎年好成績をおさめています.今年の IOI は,官民をあげて盛り上げようという台湾の意気込みが伝わってくる大会でした.開会式には呉敦義副総統が出席し,大会中には郝龍斌台北市長を招いたディナーが催されました.
今年の IOI の運営は例年に無くスムーズなものでした.ボランティアスタッフに担当外の質問をした場合でも,必ずマニュアルで確認して,それでも分からない場合は責任者に確認して回答する姿勢が徹底していましたので,私たちは安心して大会に参加することができました.日本選手団ガイドの Joan Shen (沈子安) さんの細かな気配りもあり,選手たちはトラブルに巻き込まれることもなく国際交流を楽しむことができたようです.IOI には 1 週間という短い期間に文化も習慣も異なる数百人の選手団が集まってきます.髙谷くんのように中学生の選手もいます.これらの人々を適切に誘導して,競技では選手に実力を発揮してもらうという「当たり前」のことがいかに難しいことか.IOI 2014 関係者の努力に敬意を表したいと思います.今年で任期を終える IOI President の Richard Forster 氏が IOI 総会 (GA meeting) の中で,『我々の仕事の中で大切なことは,起こりえるトラブルを事前に察知して,現実のトラブルが起こらないように対処することである』と強調していたのが印象的でした.謙虚な Forster 氏ならではの自信に満ちたメッセージだったのだと思います.
競技面で言えば,最近の IOI で行われた改革の多くは今年も継続されました.そういう意味では目新しさはあまりありませんでしたが,去年のような競技サーバのトラブルも無く安心感のある大会だったと思います.今年の IOI について気づいた点をいくつか挙げます.
- 最近の IOI は Paperless Contest として行われていましたが,今年は問題文を事前に印刷して配布する旧来の方式に戻りました.Paperless Contest では,選手が PC の画面で問題文を読むことで紙資源の節約に繋がるというメリットがあります.
一方で,現実には多くの選手が紙に印刷された問題文を必要としています.競技開始直後の大量の印刷リクエストに対応するために多数のプリンタや人員を配置しなければなりません.様々なメリット・デメリットを考えて旧来の方式に戻したのだと思います.賢明な判断だと思います.細かいことですが,競技中に選手に配布する問題文は針なしステープラーでまとめられていました.コストと環境負荷を考えてのことだったのでしょう.
- IOI 2014 で出題された課題は標準的だがよく練られたものばかりでした.
数理的な発想力・思考力が問われる良問が多く IOI にふさわしい課題セットだったと思います.
SNS を題材にした課題が出題されたのは,今の時代を反映しているのかもしれません.
出力のみの課題 (output only task) や,出力の質を評価する課題などの新傾向の課題は出題されませんでした.
- 今年出題されたある課題では,IOI シラバス外の知識を使う小課題 (部分点) が設定されていました.
これは副団長の保坂さんも指摘して,GA meeting でも議論になりました.
小課題の設定を削除するという提案もなされましたが否決されました.
確かに,シラバス外の知識を使わなくても満点が取れるのでルール違反ではないのですが,
対策してこなかった選手からすれば,あまり気分の良いものではなかったと思います.
- スコアボードは今年も実施されました.時差が少なかったこともあり,日本からリアルタイムで観戦した人も多かったようです.twitter や SNS などでの応援に励まされた選手も多くいました.応援ありがとうございました.
- 競技前日の晩 (から競技当日の早朝まで) には問題文の翻訳が行われます.
主催者側からは,あらかじめ GA meeting で翻訳の流れについて説明されるなど,翻訳システムについても入念に準備されていました.結局,翻訳システムにより出力される日本語フォントの質の問題もあり,日本選手団は自前で PDF ファイルを生成することにしました.副団長の保坂さん,随行員の今西さん,城下さんの活躍もあり,満足のいく翻訳ができたと思います.
ただ,翻訳作業が両日とも朝 5 時までかかってしまったのは改善の余地があるかもしれません.来年以降の課題です.
- 今年の IOI では,様々な場面でタブレット PC が活用されていました(世界的に有名なタブレット PC の製造元が IOI 2014 のスポンサーであることも関係しているのでしょうか).全ての参加国・地域の団長と副団長にはタブレット PC が無償で貸与されました.
大会中はタブレット PC に向けて Newsletter など様々な情報が発信されていたようです.
競技中の選手からの質問は必要に応じて団長・副団長により翻訳されますが,そのやりとりにタブレット PC を利用することもできたようです(日本選手からは質問が出なかったので,実際の質問対応システムを経験することはできませんでしたが).
参加者に配られる名札(バッジ)には非接触型の IC チップが内蔵されていて,バス乗車時の出欠をタブレット PC で管理していました.IT 技術を活用した面白い試みだと思います.(スタッフの脇をすり抜けて乗車する選手もいたのが少し気になったのですが.)
- GA meeting で来年の IOI から Java が導入されることが正式に決定しました.IOI での Java 採用は長年の検討課題でしたが,プログラミング言語間の公平性の問題もあって採用は見送られてきました.様々なベンチマークテストを行ない,ようやく Java 採用の目処がついたとのことです.
アルゴリズムの性能差をシビアに競う IOI で本当に Java が採用できるのか,不安もあります.
今後の情勢を見守りたいと思います.
唯一,今年の IOI で悔やまれる点としては,選手や随行員の中に体調を崩した人が出てしまったことです.やはり,最高気温 38 度の気候は体力を消耗します.観光で外出する時などは気温と直射日光で気分が悪くなることもありました.逆に,競技会場やホテルはエアコンが効きすぎて寒いことも多く,体調を崩す原因となっていました.競技を無事に終えることができたのは幸いでした.選手団の健康管理は来年以降の教訓としたいと思います.
最後になりましたが,今回,IOI 2014 への選手団派遣を無事に終えることができましたのは,日頃より情報オリンピックの活動にご支援をいただいている皆様のお陰です.どうもありがとうございました.今年の GA meeting では IOI 2018 の日本開催が正式に決定しました.今後は様々な形で今まで以上にお世話になることも多いと思います.今後ともよろしくお願いします.