私の親しい友人に，国際地学オリンピックの日本代表がいる．日本の高校生の中の上位4人に入るとは，そして，1つの物事をそこまで究めるとはどういうことなのだろうか，究めた先に見える世界はどのようなものなのだろうか．

　私はその疑問を彼に問うたことはなかった．きっと，問うたところで他者が理解できるものではないのだと思っていたから．

　しかし，その世界を見てみたい，知りたいという憧れは私の心の中にあり続けた．

　そして，地学ではないが，国際情報オリンピックの日本代表に私はなった．しかしながら，この疑問は的外れなものだったようだ，少なくとも私にとっては．なぜなら，日本代表になる程度では全く「究めた」とは言えないから，そして，私を日本代表にした原動力の根源は「究めるため」ではなかったからだ．きっと彼も同じなのだろう．

　日本代表になりたい，という意識は少なからずあったのは確かだが，競技プログラミングを続けてきたのはそれが主な理由ではなかった．
　もっと根源的なものだ，単純に「楽しい」から続けていたのだ．
　思えば高一の春，気まぐれで学校のパソコン研究部に入ったのがこれを始めたきっかけだ．
　友人にも恵まれ―最終的にはその友人と春合宿の最後の1日まで，代表枠を争うことになったが―とても楽しい2年半を過ごすことができた．
　他の物事を犠牲にしたり，義務感に突き動かされてまで，競技プログラミングに取り組むことはなかった．好きな時に，好きなだけ．これが私のやり方だった．
　好きこそものの上手なれ，何事も楽しむのが一番だ．

春合宿や，IOIが終わった後に喪失感を少なからず感じるものかと思っていたが，全くそのような感情は湧いてこない．もう二度とこれらに選手として参加することが叶わないことを寂しくは思うが．
　今思うに，無意識的ではあるが，これらが私にとって，「目標ではなかった」からなのだろう．
　日本代表になりたいという想いや，メダルを取りたい，良い成績を残したいといった想いがなかったわけではない．私にとってゴールがそこではなかったということだ．原動力が「楽しい」「好き」であったから．

　私の「好き」がここにある．春合宿，IOIを通じてこれを再確認できた．これはとても幸せなことだ．
　改めて，私に「好き」を教えてくれた私の友人，大佐君，米田君，米山君にここに感謝の意を記す．

　もっとも，この世界，競技プログラミングを知ってから私はまだ2年半しか過ごしていない．
　その程度で，この世界を極めたという気はさらさら起きないし，むしろこれからだという想いが強い．私は2年半をかけて，競技プログラミングという山の麓に辿り着いたに過ぎない．遥かな高みを目指して，「好き」と「楽しい」を原動力に，また少しずつ登り続ける．

　さて，今年のIOIはオンライン開催であった．とても残念でならない．シンガポールに行きたかった．
　嘆いてもシンガポールに行けるようにはならないし，もう大会は終わってしまった．
　来年の代表はシンガポールに行けますように．松尾選手の金メダルを期待しています．

　とりあえず，中止でなくて，開催されて本当によかった．これだけは確かだ．
　国際地理オリンピックは中止となってしまい，そのため春合宿も中止されてしまった．地理オリンピックに向けて力を注いでいた私の友人は嘆いていた．何年間も積み重ねてきた最後の機会．それが無くなってしまっては，やりきれないだろう．ここに書くことではないようにも思うが，何らかの救済措置はないものだろうか．
　春合宿は，代表を選抜するだけでなく，その場に参加している人間と交流を深めることができるという点で素晴らしいのだ．その機会がなくなってしまうことは，とても悲しいことだ．
　そのような厳しい情勢の中，大会開催に尽力された，日本，そして国際情報オリンピック関係者の皆様，本当にありがとうございました．これからは，私も何らかの形で大会運営に関われたら嬉しいです．

　実際にその都市へ行けない，他国の選手と交流ができないという他に，オンライン開催で一番の問題だと感じたのが，時差だ．競技時間は全世界で共通だから，日本にいながらも競技時間に合わせた生活リズムを組み立てなければならない．競技時間は日本時間の午後八時から午前一時だった．日本にいながら時差が体験できる，ある意味貴重な経験だったかもしれない．

　もちろん．オンライン開催には利点もある．ギリギリまで練習ができ，自宅でしっかり休養することができる．
　IOIの週は，昼に5時間，夜に5時間，毎日練習をして5時間の時間の使い方を慣らしていった．
　解けない問題を解けるようにするというよりも，部分点をいかに回収するか，そして，何があっても，ひたすらWrong Answerが返ってきても焦らない精神力を持つ．5時間かけて過去問を解く時にはこれにひたすら注意した．

　自分が「これは合っている」と確信しているのに，Wrong Answerが返ってくる．これが起こると，とても不安になる．焦ってしまう．呆然として時間を浪費してしまう．
　これを回避するためには，Output Checkerを書くことだ，これに限る．ランダムケースを生成し，愚直解と自分の解法を突き合わせる．もっとも，これをしても何が間違っているのかわからないときが本当に厄介なのだが．

　競技について述べよう．
　Day1は，最低限取れる範囲の部分点を回収することはできたものの，そこから点数を伸ばすことができなかった．
　最初に全ての問題に目を通し，supertreesが簡単ではないかと思い，考察する．若干バグらせながらも，1時間ほどで満点に辿り着くことができた．
　しかし，そこから先が厳しかった．
　plantsは必要十分条件が全く分からず，小課題3の2k>nから先に進むことができなかった．
　ticketsは中央値の扱いをどうすべきか見当がつかず，小課題2までしか取ることができなかった．チケットの選び方が何でもよいわけではなく，何かしら決まるのだろうとは思ったが，全くわからなかった．悔しい限りだ．
　Day1を終えた時点で159点，88位．銀メダルのボーダーは87位であり，ひとつ順位が足りない．
　金メダルはもう厳しい，無理だろうが，銀メダルは何としても取りたい．そう思いつつも，緊張せずに，気楽にやろうと思いながら臨むDay2．
　まず問題概要を見ると，batch，communication，communicationと書かれている． 解けるかどうかはともかく，個人的にはbatchよりもcommunicationの方が好きだ．実装よりも考察重視な問題が多いからだ．
　そうは思いつつ，全ての問題文を読み，まずはbatchのbiscuitsから取り組むことを決めた．
　communicationの方が後から点を伸ばしやすいのではないかと思い，先にできる限りbiscuitsの部分点をとれるところまで回収しようとした．
　1時間10分ほどで，biscuitsの部分点を小課題3まで回収し，他2題を見る．
　mushroomsの部分点10点は見えるが，25点以降が全く分からない．ひとまず10点を得るコードを書き，stationsへ移る．
　小課題の1と2はわかるので，とりあえずひとまずそれを得る．
　その後，色々考えているうちに，満点解がわかった．春合宿のstray catと同様，「こうなっていないと，解けない」というメタ読みではあるが，思いついたので実装をする．
　しかしながら，返ってきたのはTime Outというメッセージだった．赤ランプが点灯する．
　何故Wrong Answerではなく，Time Outとメッセージが返ってきた？解答を私のプログラムが返していない，どこかで実行時にエラーが発生しているのではないか？とよくプログラムを見返す．しかし，そこまで長くもないコード，間違っているとも思えない，何度も何度も手になじむまで書きまくったDFS．
　こういう，訳の分からないときは，Output Checkerを書けばよい．そう思い，ランダムケースを生成し，自分のプログラムに投げ続ける．しかしながら，全て正解を返しているのだ．
　これはおかしい，何か，根本的な勘違いをしている？
　もう一度プログラムを見返す．すると，関数にstatic修飾子をつけていなかったことに気が付く．まさかこれじゃないだろう，と思いつつもstaticを書き加えて提出． すると，緑色のランプが点灯．満点を得ることができた．
　static修飾子を付け忘れることで，40分程度の時間を失ってしまった．バグを引き起こしたところから，40分で立ち直れたので決して悪いとは思わないが，これの原因はひとえに，IOIの形式に不慣れだったというところだろう．

　今後のIOI代表の方々は，くれぐれも，くれぐれも関数にstatic修飾子を付け忘れないように，気を付けてほしい．
　その後は，mushroomsを考えていたら25点解法がわかり，それを推し進めることで80.71点を得た．80.71点から先に進むことはできずにこれで私のIOIは終わってしまったが，結果は381.71点，62位と，銀メダルを得ることができた．上々だ．

　最後に，これを読んでいる君へ，こんな長文をわざわざ読む暇人ならば，きっと相当熱意があるのでしょう．ぜひ代表になってくれ．そして，私が見られなかった，世界を見てきてくれ．

　IOI2020に参加しました．

　まず書かなければならないことはこの大会がCOVID-19の影響でオンライン開催になったということです．
　春合宿で日本代表に選ばれたときはまだシンガポールに行ける可能性が残っていて期待していただけに残念です．
　世界の選手が一堂に会する競技会場の雰囲気や，シンガポールへの旅行自体が失われてしまいした．

　しかし，それとは対照的に競技は例年とほぼ変わらない内容で行われ公式記録として残ることになり，僕は大成功をして金メダルをとることができました．
　競技に強く影響するところで唯一例年と違うのは，選手が一か所に集まれないため時差が発生し日本では競技時間帯が20:00 ~ 1:00となったことです．
　僕の場合一番困る時間帯は1:00~などの早朝と12:00~などの昼過ぎなのでこれはそこまで致命的ではありませんでしたが，人によっては困ったと思います．
　それでも競技前夜は遅めに寝て遅めに起きるということで眠気対策をしました．

　IOI初日ではバーチャル開会式とプラクティスがありました．
　プラクティスでは(僕は使っていなかったものの)他の選手が使っていたGeanyというエディタのデフォルトのフォントでアンダースコアが表示されないという問題が発覚しました．
　その他にもジャッジが各データセットについて最初に間違ったケースまでしかジャッジしないことなど，プラクティスで得られる有益な情報はたくさんあるのでまじめにやるべきです．
　この日には競技規則の再確認もします．それもカンニングがダメというような当たり前の話ではなく，標準出力の使用禁止など違反しがちなルールがあるのでそれを確認して文句が付く可能性を最小限にします．

次に実際の競技内容についてです．

　1日目 :
　1枚目に取り出したのはPlantsでした．最初の小課題である5点分以外の解法が全く見えなかったので早々に飛ばします．
　2枚目はsupertreesでした．経路数2以下の場合(96点分)を少し考えると大方分かるので実装して投げると56点が返ってきます．
　常に構築可能という制約があるsubtaskは通っているので，構築不可能なやつを構築可能と判定してしまっているのが分かってバグ取りが楽になりました．投げなおして96点を獲得します．
　この時点で次の問題に行っても良かったのですが本質に見える経路数3が含まれる最後の小課題が4点しか割り当てられてないのはあからさまに怪しいので考えるとギャグなことが分かります．笑いながら100点を取りました．
　開始30分で満点を取って緑ランプを1つ灯すと心の余裕ができます．

　3枚目，Ticketsを見ます．
　小課題1は簡単に分かりましたが他の小課題に応用できる解法には見えなかったので実装を保留して満点に繋がる本質に近いように見える小課題5に取り組みます．
　考察も実装もそこそこ重かったものの開始2時間で小課題5を通しました．とはいえこの時点ではまだ12点しかありませんでした．
　小課題5の解法を精査するとあまり高速な解法が見つかっていない処理を高速にできないと解けるわけないというお話になりました．その処理が高速に解ける特殊な入力の条件として知っているのはただ一つ，これを踏まえて考えるとこの問題の性質上この性質を満たすことが分かりました．
　一応条件が満たされることを小課題5でassertを使って確認した上で実装をし開始3時間弱でこれも満点を取ることができました．

　唯一残っている最初の問題に戻って考えますが，実はこれがかなりの難問かつ苦手問題だったようで全く最初の小課題以外に分かるものがありません．
　以後2時間以上ずっと考えますがなんと最初の小課題5点以外全く点を取れず終了となりました．実は終了5分前に2番目の小課題の解法が見えたのですが実装 & バグ取りに時間が足りませんでした．

　結果は5 + 100 + 100 = 205 (43位)で銀メダル圏内．金メダルへの望みは繋ぎました．

　2日目 :
　直前に「昨日batch3連だったから今日絶対変なの出るよな～」「プラクティスにoutput onlyなかったからインタラクティブじゃないか」「2問インタラクティブ，頼む」とか会話してたら本当に2問インタラクティブで驚きました．
　最初に開いたのはこの日唯一のbatch問題biscuitsでした．
　少し考察をしたら解法が分かったので実装しますがWAが返ってきました．目視デバッグが無理だったので愚直解と突き合わせましたがこれでも落ちなかったので根本的な考察の誤りまたは問題文の誤読をしたのかとだいぶ焦ります．
　ラッキーなことに根本的なミスはしておらず，2つの解に共通する見落としをしていただけでした．それが分かって修正するのですが，ここからのバグ取りで「コード変えてないはずの部分にバグが増えてる」というあるある怪奇現象(ほぼ確実に余計な部分をうっかり変更してるだけです)や定数倍落ちに見舞われて結局ACは開始1.5時間でした．
　次はcommunication task 2問を開いていきます．
　まずmushroomから開きましたがこれは10点しか分からなかったのでパス．
　もう一つのstationsを開きます．しばらく試行錯誤しながら考えてると解法が降ってきたので実装してAC．ここまで2時間15分です．

　day 1と同じく解く問題が1個になったのでday 1と同じ轍を踏まぬよう，インタラクティブだしできる限り斬新なアイデアをと意識しながら考察を進めます．
　3つくらいの考察ステップをクリアしていい感じの解法が出来上がっていました．
　ただ得点解析の際に20000の平方根の計算をなんと大幅に間違えていて92.62点取れるはずの解法を30点くらいと過小評価していました．このためこの後ずっと改善を考えていました．
　終了1時間前になってとりあえず実装して投げてみたら50.33点返ってきて驚いてました．
　パラメータ調整するだけで
　　　　50.33
　　　　52.44
　　　　56.93
　　　　62.09
　　　　68.07
　　　　74.59
　　　　81.29
　　　　87.6
　　　　91.87
　　　　92.62
とどんどん得点が上がって笑ってました．
　これ以上の改善はできず競技終了となります．

　day 2は100 + 92.62 + 100 = 292.62 (4位) でした．
　この問題セットは無意識にも得意だったようでBiscuitsは(JOI難易度表で)難易度10だと思ってたら11+のふるまいをしてくれて助かりました．

　競技終了後1時間で順位表が公開されました．一瞬でパッと公開されるわけではなくみんなの点数ががらがら増えていき，順位も変わっていく形式でした．その30秒間くらいは本当に心臓がバクバクでした．変動が落ち着いたら金メダルだったので他の選手とはしゃぎまわってました．
　以下は競技で役に立つかもしれないことです．

• max-plus convolutionみたいに速く解けない，または速く解ける解法が見つかっていない問題を知っておくと多少エスパーが効くことがあります
• インタラクティブはそれっぽい解法が出来たらとりあえず投げてみるといいことがあるかもしれません．僕はこれで少なくとも2回恩恵を受けています．
• 1時間とか考えても全く分からなかったら天才発想問題だと思って突飛な解法を考えると上手くいくことがあります．出来る限り多様な解法を考えましょう．

　以上でIOIの参加記とさせていただきます．

REMARK この感想文は，短めに 5,200 文字程度でまとめたものです．完全版の感想文も執筆していて，これは 11,970 文字と長めですが，こちらもぜひ読んでみましょう．
　本大会は新型コロナウイルスの世界的流行により，世界の選手が１ヵ所に集まらずにオンラインで行われたため，現地を観光する「エクスカーション」がなければ，世界各国の選手との交流もできず，少し残念でした．ですので，競技以外のことを知りたいならば，2020 年大会以外の参加記を見ることをおすすめします．しかし，開催が中止された国際科学五輪もある中で，オンラインでも開催してくださった IOI 2020 の運営サイドに，言葉に表せないほど感謝しています．

　今回は私にとって２回目で最後の IOI で，600 点中 426.67 点で世界 44 位・銀メダルを獲得しました．新型コロナウイルス大流行の影響は大きく，社会情勢の急激な変化や IOI 2020 開催日程延期の影響で，思い描いていた予定よりも練習に使える時間が大きく減るなど，想像していたよりずっとつらい道のりでした．ですが，こんな状況下でも目標のすぐ近くの「金に近い銀メダル」が取れたことを誇りに思っています．

競技の戦略について
　まず，競技の戦略についてです．私は，各問題を 3 周まわりましたが，それぞれのターンが異なる役割を演じるようにしています．

• 1 周目：それぞれの問題を見て，簡単に思いつく部分点を全部取る．
• 2 周目：解ける問題では満点を取り，難しい問題でもある程度点数を上げる．
• 3 周目：攻めの 1 周．問題を 1 問や 2 問に絞ってこれに集中する．難しい発想をできるだけ思いつき，速く実装することで，ここで他の競技者に差をつける．

　このように，1・2 周目で大失敗しない保証をつくり，3 周目で攻めに入って順位を上げるという形で，安定感があります．松尾選手を始めとする多くの強い人は「１つの問題には１回しか手をつけず，満点を取ること中心に考え，失敗した場合に最後に部分点を回収する」という戦略とは正反対で，私の戦略はかなり特殊ですが，大失敗の確率をほぼ０にできるなど利点もあります．

競技１日目について
　9/16 の 20 時から 25 時に行われた IOI 2020 競技１日目では，「植物の比較」「スーパーツリーをつなげ」「カーニバルのチケット」が出題されました．全ての問題が，入力に対して答えを出力する普通の形式「Batch Task」の問題でした．私はそれぞれ 60 点・100 点・41 点を獲得し，合計は 201 点でした．１日目終了時点で全体 47 位で，どの問題でもある程度点数が取れてうれしかったです．

　競技１日目のハイライトはこんな感じです．

• １周目は 87 分で終わり，19 + 40 + 27 = 76 点を取れました．この時点で「植物の比較」の 32 点や「スーパーツリーをつなげ」の 100 点の方針が分かっていて，かなり理想的なムーブでした．
• しかし２周目を始めようとした瞬間．「問題が発生したため，PC を再起動する必要があります．エラー情報を収集しています．」と表示され，PC はシャットダウンされ，再起動に失敗．なんと立ち上がらなくなってしまいました！
• その後，新たな PC を使って競技をすることに．ディレクトリのデータは全て消え，セッティングも一からやり直しです．このアクシデントで 20 分程度ロスしたどころか，今までのスピードが失速してしまいました．
• これに関して，私は「競技時間延長のアピール」を出しましたが，無残にも棄却され，１秒も延長されませんでした．
• 結果的に，２周目が終わったのは開始 218 分．この時点での得点は 30 + 100 + 41 = 171 点でした．
• ３周目では，比較的難しい問題「植物の比較」の 60 点に挑戦し，競技開始 274 分で獲得しました．75 点も分かっていましたが，実装が間に合いませんでした．

　この時点では金メダルラインと 30 点差と，金メダルを狙うにはかなり厳しい位置である一方で，銀メダルをほぼ確実に取れるなと思いました．何より，なんとかして戦略通りに行動できたことがうれしかったです．競技２日目は，１日目を超えるパフォーマンスを出して，悔いのない結果にしようと決意しました．

　一方で，「パソコンが壊れなければ，もっと点数を取れていたはずだ」など１日目の失敗も重く受け止めてしまい，結果的に 9/17 は競技の振り返りだけしかできず，競技２日目に向けた練習は全くできませんでした．その分 9/18 の練習では IOI 2015 の問題を２日分まとめて解き，ここで金メダル相当の結果が得られたので，競技２日目に対する自信になりました．この日は 28 時に寝て，次の 12 時に起きました．

競技２日目について
　9/19 の 20 時から 25 時に行われた IOI 2020 競技２日目では，「ビスケットの袋詰め」「キノコを数えよう」「ステーション」が出題されました．そのうち 2 問が通信型課題 (Communication Task) という，IOI の競技２日目らしい問題セットでした．

　この時点で金メダルラインと 31 点差です．もし 1 日目と同じような解かれ方をするならば，2 日目ではほぼ満点を取らなければ金メダルは取れません．でも，私は，金メダルを取りたかったのです．このたった 5 時間の競技の結果ひとつが，私の人生を大きく左右します．ですから，何がなんでも成功しなければなりません．

　１周目では，最初に「ビスケットの袋詰め」に突撃し，私の早解き力を生かして開始 19 分で全く異なる２つの小課題を取って 21 点を獲得し，その後すぐに「キノコを数えよう」の 25 点 (10,000 手) も取りました．「ステーション」では問題文を読むのに時間がかかってしまいペースは少し落ちましたが，これでも開始 82 分で 29 点を回収できました．１周目が終わり，得点は 21 + 25 + 29 = 75 点，ほぼ予定通りのムーブでした．

　しかし，２周目では失敗してしまいました．最初，「ビスケットの袋詰め」の小課題 4 が分かったと思いましたが，１個の質問につき O(通り数×K) の計算時間がかかるアルゴリズムだったため，結果的には実行時間制限超過で点が取れませんでした．この “ペナルティー” を取り返さなければならない，と思いました．その時点で「キノコを数えよう」の 56.93 点解法 (397 手) と「ステーション」の 65.32 点解法が分かっていたので，これをすぐに実装しました．ここまでで 157 分，得点は 21 + 56.93 + 65.32 = 143.25 点です．

　コンテスト終了まで半分を切り，残り 143 分しかありません．これは私が日本代表として戦える残り時間に等しいです．もう二度とチャンスはないのです．でも「ビスケットの袋詰め」がこの点数では，どうしようもありませんし，どの問題も方針が立っていない状態でした．神様はどうしてくれるんだ，と思いました．私は金メダルを目指しているのに，こんな結果では大変なことになる，と思いました．

　日本代表として戦うというのは，一体どんなものなのか．ある国のサッカーの代表選手が，世界大会でオウンゴールを決めて敗退し，自国に帰ったら射殺された，という事件を思い出しました．３月に代表が決まった時，私が「金メダルを確実に狙っていきたい」と言ったのを思い出し，よろしくない結果を取れば，射殺まではいかないにしろ，周りの仲間からの信頼は一定程度失うことになるのだろう，と思いました．あるいは，日本代表に惜しくもなれなかった人たちに，「私が代わりに IOI に出場していれば，もっと良い結果が出せていたであろう」と思われたら，どれほど私の面目を失う結果となるか．

　しかし同時に，本大会がオンライン開催になると決まった時に，何を考えたのかを思い出しました．この新型コロナウイルス大流行で，この時代を生き抜く為にみんながみんな辛い思いをしているのに，こんな厳しすぎる状況下でも日本代表を応援してくれている人がいる．私はこのためにも，よい結果を出して，みんなに感動を届けたいとも思いました．

　私は「ビスケットの袋詰め」を考え続けました．開始３時間くらいたったところで，42 点の方針が思いつきました！すぐに実装でき，開始 192 分で 42 点です．この後，同じ問題の小課題４を取って 77 点を取りたいと思い，計算時間 O(通り数 × K) のアルゴリズムをなんとかして O(通り数) に高速化するために考察しました．アイデアは思いつきましたが，実装がかなり重そうだったので，これは後回しにしようと思いました．

　また，「キノコを数えよう」も 56.93 点ではいけないと思いました．平方分割の前半パートに 200 手，後半パートに 200 手かかっているので，どちらか一方でも改善したいと思いましたが，私にはこれが思いつきませんでした．(注：実際は，前半パートを 2 倍に高速化でき，これと後述のアイデアを組み合わせると 92.62 点が取れます) ここで，前半パートと後半パートを同時並列にできないか，という発想の転換をしようと思いました．見事にこれがマッチし，280 手の解法の完成です！実装は短いが複雑で，バグらせたらつらいと思っていましたが，ほぼ一発で正しいプログラムが書け，80.71 点を得られました！

　残り時間は 45 分．この時点で 190.67 点と，あと一歩でもいいから進みたいです．これは「ビスケットの袋詰め」の小課題４をなんとか正解し，合計点 225.67 点で競技を終わらせる以外に選択肢はない，と思いました．ここで，この実装方針を詰めていくうちに，びっくりするほど綺麗に解けることが分かりました．この解法は実装も 20 行程度で，さらに定数倍もとても軽い天才的な解法です．こんな解法で解けてしまっていいのか，と思いましたが，数分考えて私の解法と実装に自信を持ちました．

　「私は非自明で天才的な解法を思いついた！」ここで私は他の選手にリードしたと確信しました．終了 19 分前に「ビスケットの袋詰め」の 77 点を得て，戦略通り 77 + 80.71 + 67.96 = 225.67 点を獲得し，私にとって人生最後の IOI の競技を終えました．

　実際に，競技２日目の順位は，１日目と全く同じ 47 位でした．

全体の結果について
　競技が終了し，他の参加者の点数を聞いてみると，私以外の日本代表が全員，「ステーション」の満点を取っていたというのは，とにかく，とてもびっくりしました．一方で，日本選手全員が 200 点を取っていたというのはうれしいなと思いました．

　競技２日目の順位表の公開は遅く，夜 2 時 30 分くらいまで競技会場で待ちました．発表されたことは私が最初に気づき，次々とデータがアップロードされていきます．全部の提出データが順位表にアップロードされ，暫定結果が確定した時には，日本チーム全員が歓喜につつまれました！

　日本代表は金メダルをひとつも取れない可能性もあると考えていました．しかし，結果は 22 位・23 位・42 位・62 位で，メダル獲得数は「金メダル×２，銀メダル×２」，これは日本代表としては３年ぶりの快挙でした！国別順位は，中国・アメリカ・イラン・ロシアに次ぐ５位で，凄い結果でした．

　私自身の結果としては，３月の代表選出時点での最終目標である金メダルには届きませんでしたが，新型コロナウイルス大流行で練習計画が完全に崩れ去り，先も読めない厳しい状況の中で，８月の終わりには銀メダルも狙えないかもしれないと思った時から，なんとかして逆転復活し銀メダル上位を取れたことが素直にうれしかったです．

５年間の軌跡を振り返って
　私は５年間に渡って情報オリンピックに出場し，この IOI 2020 が私にとって最後の大会となりました．情報オリンピックは，単に情報科学やアルゴリズムの技術を身に着けさせてくれただけでなく，競技そのものの楽しさも知ることができました．さらには，競技自体は全員が対戦相手ですが，競技の解法を議論するなど協力的になることも重要だと知り，あるいは選手たちを互いに尊重し教え合うことの重要性も学びました．そのうえ，情報オリンピックを通した活動で，精神面でも大きく成長できたと感じています．

　私が人生で情報オリンピックに出会えたこと自体，とても運がよかったと思えます．こんな素晴らしい経験ができた人生，本当にありがたいものです．情報オリンピックには感謝してもしきれません．これを１パーセントでも還元するために，これからも情報オリンピックやこれに向けて頑張る小中学生・高校生を，何らかの手段で支えていければと思っています．最後に，５年間ありがとうございました．

　参加記

　今回のIOIは，自分にとって3度目で最後のIOIでした．2018年大会・2019年大会で金メダルを獲得していることもあり，今年は絶対に金メダルを逃さないぞという思いが日本選手団の中では一番強かったと思います．しかし，本大会ではCodeForcesでいうLegendary Grandmaster（注：世界全体で約30人しかいない）に相当する実力を持つ選手が10人ほど参加しているなど，例年より強い選手が多かったため，1位を取るのは今年6月の段階でとても難しいと分かっていました．そこで今回は，「金メダルを確実に取る」という戦略を使いました．

　具体的には，以下のような戦略です．

• 最初から満点に突撃せず，部分点を1個ずつ考察する．
• 私はプログラムを実装する速度が他の選手に比べてとても速いので，そのメリットを生かして解法に気づいた部分点から実装する．

　この戦略は，全完や1位を目指したい人にとっては良くない戦略といえます．理由は簡単で，競技時間が5時間と短いため，全完するにあたっては，部分点から考察したり実装したりするような時間は存在しないからです．しかし，「確実に金メダルを取る」など，自分の決めた目標を絶対に達成したいという人とっては良い戦略といえます．何故なら，別の問題の満点に突撃した結果，嘘解法やプログラムのバグなどが原因で失敗した場合に，大半の時間をロスし，この問題の部分点だけでなく他の問題の得点までを失い，ついには大失敗となってしまう，といったリスクが大幅に減るからです．

---

　さて，午後8時に始まった競技1日目は，最初に1問目のplantsを読みました．しかし20分後，予想外の衝撃的なことが起こります．たった5点しか解法が分からないのです．練習では20分考えて僅か10点すら解法が分からなかったことは一度も無いので，問題文の誤読を疑いましたが，何度読んでも誤読した箇所は見つかりませんでした．そこで，この問題は超難問であると判断し，5点の実装を後回しにし，落ち着いて2問目のsupertreesに移りました．（実際，この判断は正しかったです）

　次に読んだ問題（supertrees）は過去3年のIOIで出題された中で最も簡単で，参加者の約7割が96点以上を取っていました．私はリスク回避のため，小課題1つずつ考察を進めていきましたが，1分以内に解法に至ったものがほとんどで，最終的には25分で満点を取ることができました．

　次に，残る1問であるticketsを読みます．この問題の部分点は重実装なものが多く，41点を取った時には既に開始から128分が経過していました．そこで，後回しにしていた軽実装な小課題3（14点）を実装するか，先の小課題に進むか迷ったのですが，私は後者を選びました．10分考察すると貪欲っぽい解法が見えたので実装しましたが，嘘解法であり50分をロスしました．そこで，もう一度原点に戻り，解法を再び考えたところ，なんと動的計画法を用いた正しい解法が思いつきました．計算量は O(n² m²) と非常に遅いのですが，小課題5が通り，後回しにしていた部分点も含めて67点を獲得することができました．

　だが，この時点で開始212分が経過していました．plantsをこのまま0点で終わらせたくはなかったので，既に解法が分かっていた部分点解法を実装し5点を取りました．その後貪欲法で解けないか紙の上で実験をしてみたところ，なんと解けているのではありませんか．計算量は O(N³) と非常に遅いため16点しか取れないのですが，後半に置かれている部分点の一部が取れるため満点に近いと信じて実験と考察をさらに深めました．その結果，累計60点分の解法が一挙に思いつき，とても嬉しかったです．

　しかし，実装が本質です．遅延セグメントツリーとsetを用いる重実装だったため，確実に時間内に60点を獲得するために，最初に O(N²) の比較的短いプログラムを書き，次にそれを1ステップごとに改善し，提出して N≦5000 の部分点が通っているか確認しながらデバッグすることで効率的に実装を行いました．その結果，終了11分前に60点が通りました．その後すぐ75点解法に気づいたのですが，デバッグの時間が僅かに足りず，終了6秒前に提出したプログラムはWA，そして15点が霧の中に消えてしまいました．

　結果，60+100+67=227点，32位．目標としていた金メダルのまさに1個下の順位，いわゆる「逆ボーダー」でした．また，ticketsで自分が考えていた嘘解法と実際の想定解法が非常に近かったため，とても悔しかったです．しかし，競技2日目開始時点では気持ちを完全に切り替えることができました．



　競技2日目は，傾斜配点の付いている2問を後回しにし，残りのbiscuitsから解くことにしました．20分考えたら42点解法が思いついたので実装しますが，プログラムをバグらせた結果，点数を取ったのが予想外に遅くなりました．しかし，気持ちを切り替えて次の小課題（満点の1個手前）を考えるとすぐに平方分割が思いついたので実装し，開始68分で77点という高得点を取ることができました．

　次に，2問目のmushroomsを読みました．この問題は小課題が1個で，質問回数 Q に応じて以下のように点数が決められている特殊な形式の問題でした．

• 10011≦Q≦20000 → 10点
• 905≦Q≦10010 → 25点
• 227≦Q≦904 → (100×226÷Q) 点
• Q≦226 → 100点

この問題は天才的な発想が必要なインタラクティブ問題であり，一瞬で解法が思いついたのは10点だけでした．しかし残り時間には余裕があったので，時間をかけて考察した結果，25分で良さそうな解法が思いつき，実装した結果56.5点（Q=400）が取れました．そこでさらに点数を伸ばせないか，何らかの手掛かりはないか，必死に考察をしたところ，今まで考えてもいなかった25点の部分点（Q=N/2）に目が行きました．これが解法のヒントなのではないかと N/2 クエリで解く方法を考察したところ15分で思いつき，それと56.5点解法を合成させると高得点が得られるのではないかと考え，実装したところ80.14点（Q=282）が取れました．更に考察を深めると92.24点（Q=245）が取れました．それ以上の解法は見つけられそうになかったので，残る1問に移ることにしました．

　3問目のstationsは，最初に一瞬で思いついた解法を実装し65.32点を獲得しました．この時点では 77+92.24+65.32=234.56点です．しかし，比較的簡単目なセットであることを考えると，自分は252.00点（84.0%）前後の点数を取れば金メダルだと読んでいたため，stationsで満点を取れるかどうかが，金メダル獲得への「セキュリティーゲート」だと踏んでいました．



　コンテストは残り95分となり，時々刻々と終了の時が迫ってきます．そんな中，私は今まで5年間に学んできた典型テクニックの全てを引き出し，必死に考察を進めたところ，何とか解法にたどり着くことができました．実装方針を紙にまとめた後プログラムを書いたところ，89点が取れて自分の解法が合っていると確信しました．その後，89点解法を少し変えるだけで満点が取れることに気づき，プログラムを実装します．そして，日付が変わった午前0時4分42秒，提出が受理され「Score: 100 / 100」の緑の表示が出ました．これが決勝点となり，金メダルを獲得することができました．

　ラスト55分は残った問題の解法に気づくことはできず，僅か0.38点しか上げることができませんでした．結果は 77+92.62+100=269.62点と9割近い点数を獲得することができ，他の参加者が相当強くない限りはボーダーすれすれで金メダルが取れるとは思ったものの，不安が残りました．

　そして午前2時18分．順位表を見ると，自分が23位で金メダル圏内であることがわかりました．その瞬間はこの上なく嬉しく，今まで5年間の努力が報われたと思いました．日本で2人しかいなかった「金メダル3個」を達成することができ，本当に青春を情報オリンピックに捧げてきて良かったなと思いました．

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　5年間を振り返って

　これをもって，私の5年間の青春が，3度目の金メダルで終わりました．この5年間には色々なことがありました．最終的な金メダルの数では十分な成功を収めたと思いますが，最初の春合宿でほとんど最下位を取ってしまったこと．春合宿最終日に点が伸ばせず次点で日本代表に選ばれなかったこと．挫折は数えきれないほどあります．

　しかし，この5年間の競技人生が私を成長させてくれたことは多いです．
　1つ目は，情報オリンピックはほぼ間違いなく私の人生を変えました．私の数理科学に対する興味を引き，様々な問題を解決する面白さに気づかせてくれました．他の人と一緒に競争するだけでなく，一緒に解法を議論したりすることの重要性にも気づかされました．
　2つ目は，情報オリンピックは私の人生において重要なことを教えてくれました．何度挫折しても諦めず再挑戦することが大切だということ．目標に向かってどのように練習するのか考えた上でひたすら努力することが大切だということ．他の競技者を尊敬し互いに教え合う姿勢が大切だということ．そのほかにも数えきれないほどあります．

　5年間の青春を終えた今，私は将来コンピューターサイエンスの最先端の研究や開発などで活躍できる人材になりたいと強く思っています．しかし，競技プログラミングで問われる能力だけでそれが達成できるのかというと，100%違います．私は壮大な夢を達成するために，大学に入ってから情報科学のさらに広く深い分野を学ぶことで，10年後あるいは15年後，情報科学の世界で活躍できる人材になることを目指しています．

　最後に，情報オリンピックから受けた恩恵は本当に絶大なものだと思っています．今後，何らかの手段で還元できないかと考えているところです．しかし，それだけでは足りないと思うので，せめて感謝の言葉でこの感想文を終えたいと思います．今まで5年間，本当にありがとうございました．

　例年は世界中の高校生が一同に会する本大会ですが，COVID-19の影響を受け，今年はオンラインでの開催となりました．私からは特に，選手の様子について，例年と比較して感じたことについて記します．
　IOIの醍醐味の１つとして，世界中の優秀な高校生と交流できることが挙げられ，これが思い出になったり，良い刺激となったりするのですが，今年は他国の選手と交流する場が無かったため少し残念でした．また，選手たちは競技の合間に高校に通っていたこともあり，「大会の雰囲気」も例年より薄かっただろうと思います．
　一方競技については，主にパソコンを使用するため，課題の内容や競技環境は例年とほぼ同じだったように感じました．日本という安心感のある環境で，時差ボケなども無く競技を行い，安定したパフォーマンスを発揮できたのではないかと思います．また例年であれば，海外の食事に合わずお腹を壊す選手がよくいるのですが，そういった心配をする必要もありませんでした．
　来年以降は，特に交流や雰囲気の観点から，状況が許せば対面になって欲しいと思っていますが，もし再びオンラインとなったとしても，交流の場を設けるなどの進展があると良いと感じます．

　今回のIOIはオンラインということで，例年と全く異なる様子で競技を行うこととなりました．各国に会場を設置し，そのそれぞれに監督者を置いてオンラインで競技を行うという形だったのですが，大会期間中ほとんど混乱はありませんでした．
　例年，すべての選手にできるだけ同じような競技環境を提供し，コンテストサーバーを不安定になることなく運用し，十分な監視を行い公平性を担保するということは並大抵のことではありません．今年はそれを世界中に分散した会場で行うという更に難しいことを行ったわけですが，入念な準備を重ね，それを着実に行うシンガポールの運営は驚異的な仕事をしていたと思います．
　また，例年は団長・副団長・随行員が問題の翻訳などの選手のサポートを行うのですが，今年はその範囲が拡大し，競技会場でのコンテスト環境の準備・コンテスト中のトラブルの対応も監督者と協力して行うこととなりました．しかし，このようにすべての参加国にある程度の技術レベルが求められる状況でも，ほとんどの国が選手に安定した競技環境を提供できていて，こうしたことは情報オリンピックだからこそできることだなと思いました．
　今回は各国の選手と直接交流するなどのことはできませんでしたが，その分，情報科学の力というものを体感することとなり，例年とは違った側面で有意義だと思える大会でした．

　初のオンライン開催となったIOI2020に随行員として参加しました．
　随行員の仕事の一つとして競技で用いられる問題文の翻訳作業があります．大体は支障もなく進められたのですが，少し変わった設定であるような問題もあり，日本語に訳す際に苦労した部分もありました．
　今年の問題は過去のIOIの問題と同様に考察力が必要となる良問が多かったと思います．特に情報オリンピック特有のReactive型課題であるstationsとmushroomsは非常に面白い問題でした．stationsはできる限り少ない情報量で相手に伝えるような問題で，発想力が必要であり尚且つ実装は軽い良問でした．一方，mushroomsはデータの情報を求めるのに必要な質問の回数をできる限り少なくするような問題で，満点を取るためには何ステップも閃かなければいけない難問でした．plantsやticketsなどのBatch型課題の問題も，初見では全く解けそうに見えない問題であり，考察力だけでなく実装力も必要となるような問題でした．良い成績を取るにはデータ構造の知識や考察力，実装力すべてが必要不可欠な問題セットであったと思います．
　シンガポール観光ができなかったのは残念でしたが，選手時代ではあまり見れなかったIOIの裏側を知ることができて非常にいい経験になりました．